第4回ブックガイド 移民の経済学

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① Bパウエル編『移民の経済学』東洋経済新報社2016
② 友原章典 『移民の経済学』中公新書2020

同名の書籍だが筆者は別々である。「移民の経済学」が流行っているという事実は、先進国が一様にこの「悩み」を共有していることを示している。①の帯には「移民が来ると国が貧しくなる?/移民で治安が悪くなる?」という問いが掲げられ、②の帯には「外国人労働者が増えると、何が起きるのか?」と記されている。確かにこれらはみんなが知りたい問いなのだ。移民反対論者は「治安が悪くなる」という実例を示し、移民擁護論者は「国が豊かになる」という実例を主張する。しかし、こうした事例が全体の傾向を代表しているのかは明らかではないので、特徴的なエピソードを証拠とするだけでは議論は平行線となってしまう。

そこで、両書はいずれも感情論を離れて、データに基づく経済学的な実証研究によって冷静な判断の素材を提供しようとする。①では様々な立場の研究者がそれぞれの視点からデータを用いた研究成果を紹介している。2章では移民が受け入れ国の労働者の賃金を下げるかという問いに対して「どちらとも言えない」、3章では移民が受け入れ国の財政に負担になるのか利益になるのかを問い、「時間軸や国の政策によるので、どちらとも言えない」と結論する。移民制限が有効なのか、同化政策が有効なのかについて検討する4章、移民流入をコントロールするビザ制度の国際比較をする5章でも、「それぞれの国によってどれが最も効果的な政策かは一概には言えない」というのが結論である。

同様に②でも「雇用環境が悪化するか」「(移民は)経済成長の救世主か」「住宅・税・社会保障が崩壊するか」「治安が悪化し、社会不安を招くのか」などなど、日本でも議論の的になりうるテーマについて、これまでの実証研究の成果を入念に比較検討している。そして、入念に比較すればするほど、答えは「どちらとも言い切ることはできない」に近づいていくのである。つまり、経済学的実証研究が示しているのは、移民の流入によって社会がどう変わるかは自動的には決まらず、受け入れる側の政策・心がまえ次第だ、ということだ。だからこそ、受け入れる側の熟慮が必要なのだというメッセージを受け止めるべきなのだろう。

結論部分で①の編者パウエルは、(制御不能な)悪影響の存在が実証されない限り、数量制限のない移民流入に向かうべき、と主張している。②の著書友原は「得られるものと失うものをきちんと認識したうえで、将来どのような社会を築きたいのか」を議論すべきであると提言している。移民流入の効果は、当然のことながら人によって違う。人手不足の中小企業や農林漁業経営者にとっては不可欠だが、そうでない人にとっては経済的にも心理的にも脅威になる。そうした人にとっては、いくらマクロ経済レベルでの効果を主張されても個人的な不安は解消されない。また、移民受け入れの効果は時間軸によって違うが、超長期的に見れば移民増加の世界的趨勢は不可避であるという見方が根強い。だとすれば我々は長期的視点に立って、どのような受け入れ政策を取るべきかを議論するべきなのだろう。実証研究をいくら積み上げても、人々のマインドセットの変更以上に、移民を平和的・安定的に受け入れる決定的な要因は見いだせないのである。(了)

佐藤寛(アジア経済研究所)

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